Research

研究テーマ

5. マイクロ流体デバイスを用いた脂質ナノ粒子作製と核酸医薬への応用

マイクロデバイスを用いたコンビナトリアル合成システムの開発とDDSナノ粒子設計への応用|令和元年度競輪とオートレースの補助事業 

1 研究の概要

本研究では、令和元年度競輪とオートレースの補助事業による補助を受けて、Drug Delivery System(DDS)を基にした次世代の核酸ナノ医薬品を効率的に作製するために、マイクロ流路デバイスを用いたコンビナトリアル合成システムを開発する。コンビナトリアル合成とは、有機合成手法の1つであり、多数の原料ライブラリーから組み合わせ論的に化合物を合成する手法である。高機能なDDSナノ粒子を開発するためには、脂質原料組成の最適化と粒径の精密制御が不可欠である。これまでに我々の研究室では、マイクロデバイスを用いることで、DDSナノ粒子の粒径を100 nm以下で精密に制御できることを報告した。本研究では、マイクロデバイスを用いたコンビナトリアル合成システムを開発し、DDSナノ粒子設計への応用を目指している。

 

2 研究の目的と背景

2018年にsiRNAを搭載した脂質ナノ粒子製剤であるPatisiranが世界初のsiRNAを内封した医薬品としてFDA(米食品医薬品局)に承認され、核酸ナノ医薬品が世界的に注目されている。一方で、siRNAをはじめとする核酸は、生体内で酵素によって速やかに分解される。そのため、生体内における核酸デリバリーは、生命科学や医薬品開発(分子標的薬)、遺伝子治療など幅広い分野で注目されている。核酸医薬品の分解を防いで目的の細胞まで運搬する手法の1つとして、Drug Delivery System(DDS)が広く利用されている。現在、粒径100 nm前後の脂質ナノ粒子(DDSナノ粒子)が最も臨床応用されている。一方で、高い薬効を示すDDS核酸ナノ粒子製剤を開発するためには、粒径を100 nm以下で精密に制御しつつ、脂質ナノ粒子組成を最適化する必要がある。

現在は手作業による地道な粒子調製と動物実験によって、試行錯誤的に最適化が行われている。本研究では、我々の研究室で開発してきた脂質ナノ粒子の粒径を10 nm間隔で精密に制御可能なマイクロデバイスを基盤とした、DDS脂質ナノ粒子作製のためのコンビナトリアル合成システムの構築を目指している。

 

3 研究内容

(1)脂質ナノ粒子作製のためのコンビナトリアル合成用マイクロ流体デバイスの開発

脂質ナノ粒子の脂質組成を効率的に最適化するためのコンビナトリアル合成用マイクロ流路構造・システムの検討を行なった。流体シミュレーションによって、マイクロ流路内で流体挙動を詳細に解析し、流路構造を最適化した。最適化した流路構造をもとに、脂質ナノ粒子のコンビナトリアル合成用の試作型マイクロ流体デバイスを作製した。作製したデバイスの粒子形成挙動を検証した結果、これまでに開発した脂質ナノ粒子作製用デバイスと同様の粒径制御性能を示した。また、検証実験の結果、試作型デバイスでは耐圧製に課題があることが明らかになったため、ガラス製の脂質ナノ粒子作製用デバイスの開発に取り組んだ。半導体微細加工技術によってガラス製デバイスを作製し、粒径制御性を検証した結果、100 nm以下のモデル脂質粒子を精度良く調製することができた。さらに、作製したガラス製デバイスを核酸搭載DDS脂質ナノ粒子の調製に応用した。ガラス製デバイスによって、既存のデバイスでは使用できない低極性溶媒を用いた粒子作製が可能となり、これまでには作製できなかったサイズの核酸搭載脂質ナノ粒子を調製することができた。マウスに作製した粒子を投与し、遺伝子ノックダウン活性を評価した結果、ガラス製デバイスで作製した粒子は、既存デバイスで作製した粒子を上回るノックダウン活性を示した。

 

4 本研究が実社会にどう活かされるかー展望

日本においては、2019年にpatisiranが承認され、今後、抗体医薬から核酸医薬へのパラダイムシフトが起こると予想される。patisiranは、肝臓に目的のsiRNA(核酸)を送達するために、粒径と脂質組成を最適化している。本研究で試作した脂質ナノ粒子作製のためのコンビナトリアル合成システムは、粒径を精密に制御しつつ、脂質組成を迅速に最適化することができる。そのため、核酸医薬品開発を効率化し、臨床応用までに要する時間を短縮できると期待される。

 

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

今回の研究によって、これまでに開発してきた脂質ナノ粒子作製のためのマイクロ流体デバイスの実用化に近づくことができた。本研究で試作したコンビナトリアル合成システムだけではなく、脂質ナノ粒子作製用のガラス製マイクロ流体デバイスは、粒径制御性・耐圧性に優れており、実用化に必要な粒子生産量を実現できる。今後、本デバイスの実用化を見据えて研究を進める上で不可欠な粒子生産性能を有するデバイスを開発できた点は、工学研究の観点から大きな意義があると考えられる。

 

6 本研究にかかわる知財・発表論文等

論文投稿中

Development of a Microfluidic-Based Post-Treatment Process for Size-Controlled Lipid Nanoparticles and Application to siRNA Delivery, N. Kimura, M. Maeki (equal contribution to the 1st author, corresponding author), Y. Sato, Y. Note, A. Ishida, H. Tani, Hi. Harashima, and M. Tokeshi, ACS Appl. Mater. Interfaces 2020, 12, 30, 34011–34020.

 

7 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

https://microfluidic.chips.jp/jp/

 

(2)(1)以外で当事業において作成したもの

なし

 

8 事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 北海道大学工学部(ホッカイドウダイガクコウガクブ)

住   所: 〒060-8628

北海道札幌市北区北13条西8丁目

担 当 者: 助教 真栄城 正寿 (マエキ マサトシ)

担当部署: 生物計測化学研究室(セイブツケイソクカガクケンキュウシツ)

E-mail: m.maeki@eng.hokudai.ac.jp

URL: https://microfluidic.chips.jp/jp/

 

 

開発したマイクロ流体デバイス

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