Research

研究テーマ

2.分析機能を集積したマイクロチップの開発

現場での即時検査が可能な高性能可搬型分析装置の開発|平成30年度競輪とオートレースの補助事業 

 

1 研究の概要

平成30年度競輪とオートレースの補助事業による補助を受けて,私たちのグループは検査結果がすぐに必要な場所で検査ができる可搬型分析装置を開発しました。このような装置の開発は,私たちのグループが以前から行ってきましたが,本事業でついにその実用化にめどをつけました。私たちが開発した分析装置は,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析を行うための装置です。HPLCは,多成分からなる試料を液体の流れに乗せて,吸着剤を詰めた長い管(カラム)に通過させることにより,成分ごとに分けて,それぞれの定性または濃度測定を行う分析方法です。HPLCおよびその装置は,汎用性と信頼性が高いことから,現在,品質管理,食品安全性試験,臨床検査,環境計測などで使用されています。しかし,従来の装置は大型なため,検査が必要な場所に設置して使用することができませんでした。そのため,検査のためには,装置を備えた検査室に検体を送る必要があり,検査結果をみて必要な対応をとるまでに時間がかかっていました。本事業で開発した装置はこのような問題を解決するものとして期待されます。

 

2 研究の目的と背景

現在の社会では,多くの場面で検査が欠かせません。たとえば,病院での検査,工場での原料や製品の品質の確認,上水・下水の検査,輸入食品の検査,環境汚染の監視などです。しかし,従来の装置は大型なため,検査が必要な場所に設置して使用することができませんでした。そのため,検体を,装置を備えた検査室に送る必要があり,検査結果にもとづいて迅速に対応するには限界がありました。製造業においては,この時間的ロスがコストの増加にもつながり,環境汚染においてはそれが拡大する危険性がありました。

 

この問題の解決には,検査を必要とする現場で使用できるほどに小型かつ軽量で使用しやすい装置が求められていました。私たちのグループは,これまでにHPLC装置の要素を根本から小型化することに取り組み,その原型となるべき超小型・軽量の装置の開発に成功しました(特許取得済み)。そこには,HPLCの必須要素であるポンプ,試料注入器,カラム,検出器はすべてここに収納されています。小型化と軽量化の鍵は,ポンプの動力源に電気浸透現象を利用したことと,カラムと検出部を大幅に小型化し一枚の基板に組み込んでチップ型モジュール(4×6 cm)としたことにあります。ここで,電気浸透とは,水を満たしたガラス毛細管の両端に直流電圧を印加したとき,水が一方向に移動する現象のことです。このポンプでは,この水の流れで液体を押し出すため,その送液機構は毛細管(実際は貫通型多孔体を使用)と電極だけでよく,従来質量の大部分を占めていたモーター等の機構は必要ありません。それにともないメンテナンスもほとんど不要になり,消費電力も小さいため乾電池で24時間駆動できます。一方,これまでのカラムの典型的な寸法がφ4.5×150 mmであるのにくらべ,チップモジュールに搭載したカラム(円管)寸法は,φ0.8×30 mmです。また,カラムは高さ0.1 mmの流路で構成される検出器と一体化しています。これにより従来必要だった複雑な配管が不要で,チップモジュールを所定の箇所に差し込むだけで準備が完了します。しかし,これまでの研究では構成要素のみであったため,完成形のイメージが想像しにくく,実際にどのように利用できるかが未知でした。そこで,本事業では上記の特長をもつHPLC装置を製品に近い形で作製し,実用化を目指すことを目的としました。そのさい,現場に持ち込めるほどコンパクトであり,電源がない場所でも使用可能なようバッテリー駆動とし,簡便に操作できる仕様を目指しました。

 

3 研究内容

(1)可搬型分析装置の開発

本事業により完成度が高く洗練されたデザインの試作機3種類が完成しました(下図)。それぞれ電気伝導検出器,紫外可視吸光検出器,電気化学検出器が搭載されており,用途に応じた選択ができます。サイズは,415 mm×305 mm×378 mmとなり,15型ノートパソコンより一回り大きな設置面積です。質量は 30 kgです。室外での利用も想定してステンレスを用いた堅牢な筐体としています。本機は,分析に必要な要素をすべて組み込んだオールインワン型の装置で,モバイルバッテリーを搭載することで電源をとれない屋外での分析も可能にします。ポンプは,従来にはない電気浸透流ポンプを採用しています。これによって装置全体の小型化と軽量化を図ることができています。ポンプは分析のための十分な圧力と流量(20 µL/min)で液体を送液できます。分析性能についても,いくつかのモデル物質の分析において各物質が良好に分離し,それぞれ検出されることを確認しています。本機を機器関連の展示会に出展したところ,従来のHPLC装置をこのようにオールインワン型で可搬型にした点について高い好評を得ました。

 

 

 

 

4 本研究が実社会にどう活かされるかー展望

本事業で開発した分析装置は,検査が現場で迅速に行えるようになるため,例えば以下のことが期待されます。

(1)省コストな高品質生産

原材料,中間製品,最終製品,工場排水のチェックが迅速にできるため,異常な場合の対処が直ちにできるようになります。品質保持のためのこれまでの過剰な処置を低減できます。

(2)生活の安全・安心の向上

生活の安全・安心に疑いがある製品の品質確認が迅速にできるようになります。健康上有害な製品や物質の拡散を抑制できます。

(3)医療の質の向上

患者が検査のために通院する回数を減らし,経済的,精神的負担を軽減でき,検査のつど適切な治療を受けられるようになります。

 

5 本研究にかかわる知財・発表論文等

  • 1次試作機(モックアップ)をJASIS 2018(アジア最大規模の分析機器・科学機器関連の展示会)に出展,2018年9月,幕張メッセ
  • 最終試作機を国際医薬品原料・中間体展(CPhI Japan展)・ファインケミカルジャパン2019展に出展,2019年3月,東京ビッグサイト

 

この研究は、競輪の補助を受けて実施しました。

 

 

 

 

 

 

 

事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 北海道大学大学院工学研究院

住   所: 〒060-8628

北海道札幌市北区北13条西8丁目

担 当 者: 石田 晃彦

担当部署: 生物計測化学研究室

E-mail: ishida-a@eng.hokudai.ac.jp

URL: http://labs.eng.hokudai.ac.jp/labo/tokeshi_lab/

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